大きなリターンを生むために(テック企業編)

テクノロジーの変曲点を特定することこそが、大きなリターンを生むテックベンチャーの真髄

起業する際の方法論は二つしかない

方法論1:市場に存在している何らかの問題を特定した後に、その問題を解決するための製品を生み出す方法(一般にMarket-inとも言う)

方法論2: テクノロジーの変曲点(テクノロジーによるなんらかのブレイクスルー)を見出し、それを利用した商品を生み出し後に売り先(市場や顧客)を見つける方法(一般にProduct-outとも言う)

著名VC投資家のアンディ・ラクレフ(Andy Rachleff)によれば、テック企業の場合、前者は平凡なリターンしか生まず、後者にしか大きなリターンは潜んでいないとしている。

ラクレフはVCファンドのベンチマーク・キャピタル(Benchmark Capital)の共同創業者として有名で、現在はウェルス・フロント(Wealthfront Inc.)というロボアドバイザーを用いた資産運用で有名な会社の創業社長を務めている。

ベンチマークは特に2011年の7号ファンドが有名で、$550Mのファンドサイズに対し、2018年夏時点で$14B(25.5x、フィー前)の時価まで成長しており、Uber($12M→$7B, 583x)、Snap ($21M→$2.0B, 95x)、WeWorkをはじめとするユニコーン企業が8社も含まれている。単一ファンドとしては近年最も成功したファンドの一つに数えられる。もちろんベンチマークの過去のファンドの実績も輝かしく、創業からの全8ファンド(7号ファンドも含む)はこれまでに累計で$22.6Bの払い出しをしており、フィー後で10.0xのリターンを投資家に還元済である。

テクノロジーの変曲点の具体例

Google(1999年創業)の場合:サーバーの価格が急速に安くなったことで(ヤフーが創業した1995年当時に比べて1/10から1/20程度まで安価になった)、ヤフーの検索アルゴリズムとは違い多くのリソースを必要とするページランクを大規模に展開することが可能になった

Youtube(2005年創業)の場合: 高速インターネットの普及で、きれいな画質のビデオストリーミングが可能になった

Uber(2009年創業)の場合:スマホが普及したことで、携帯電話にGPS機能が付加され、いつでも、どこからでも配車依頼が可能になった

Instagram(2010年創業)の場合:カメラ付きのスマホが普及したことに加え、ソーシャルネットワークアプリ(フェイスブック)が普及したことで、多くの人に対してきれいな写真をいつでも、どこからでも共有できるようになった

このようなテクノロジーの変曲点を捉え、製品を開発することで大きなリターンがはじめて生まれている。逆に何らかの問題点を解決しようというMarket-inのアプローチはテックベンチャーにおいては大きなリターンを生みにくい。

ラクレフに言わせると、米国MBAで頻繁に教えられ、人気授業となっている「デザイン・シンキング」や「リーン・スタートアップ」の手法はMarket-inの考え方に基づいており、テックの領域において大きなリターンを生むことは少ないとのこと。むしろ中規模のリターンを生む方法に適しているそうだ。

MBA生のキャリアに照らし合わせた際の示唆

上記のことからもわかるように、テクニカル・バックグラウンドのないMBA生が得意とするのは、やはり「デザイン・シンキング」や「リーン・スタートアップ」の手法を用いた起業である。ただ、先述の通り中規模のリターンを生む方法として適しているものの、グーグルやフェイスブックのようなとてつもない成功につながることは少ない。そうすると、大きなリターン(金銭以外のものも指す)を求めるには優秀なテクニカル・ファウンダーのもとで働かせてもらうのが現実的な選択肢と言える。

ちなみにラクレフが社長を務めるウェルス・フロントは毎年、Career Launching Company List(キャリアを加速させるための企業名簿)を発表しており、今後飛躍的に成長する可能性の高い、上場前のスタート・アップを列挙している。(これらの企業は未上場、売上高$20-300M、3年先まで毎年50%超で成長見込み、魅力的なユニットエコノミクスを実現していることが条件となっている)

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