テック・スタートアップのGo-To-Market戦略(PMF前まで)

プロダクト・マーケット・フィットがすべて

マーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)の言うように、スタートアップにとって重要なことはただ一つ、プロダクト・マーケット・フィット(Product Market Fit: PMF)である。

世の中には二種類のスタートアップしかいない。PMFに到達したスタートアップとPMFに到達していないもの。

アンドリーセンの定義を借りれば、PMFとは「(規模が大きいあるいは今後成長する)良い市場において、顧客を満足させられるような商品を提供できていること」。多くのスタートアップは、ニーズの全くない商品を開発したり、あるいはその商品を求めている顧客を見つけ出すことができず、成長できないままにいることがある。これがPMFに到達できていない状態である。

そこで、以前の投稿で書いたように、テックスタートアップがテクノロジーの変曲点を見出し、それを利用した商品を生み出し後、いかにしてPMFに到達すべきかについて書きたい。

テクノロジーの導入ライフサイクルとは

テクノロジーの導入において、導入ライフサイクル(Technology Adoption Life Cycle)という考え方がある。新商品購入の早い順に、
Innovators 革新者、
Early Adopters 早期採用者、
Early Majority 前期追随者 、
Late Majority 後期追随者 、
Laggards 採用遅滞者 、
と五つの分類があるとされている。

Technology adoption life cycle image

重要なのがEarly Adoptersのどこかにある大きな溝( キャズム )が存在していて、それを乗り越えられるかどうかが小規模なままの市場としてたちまち消えていくのか、大きな市場を勝ち取るあるいは作り出すことができるのかの分かれ道となる。

ニッチマーケットから攻略する

このキャズム(溝)を乗り越えるために重要とされているのが、特定のニッチマーケットを圧倒的に独占すること(Early Adoptersから圧倒的に高い支持を得る)。ニッチマーケットを独占し高い支持を得ることで、そこからの口コミでEarly Majorityが導入するきっかけが作られる。逆にどれだけ優れた商品だと説明されても、周囲の誰かが口コミで流布するなど、その実感が沸かない限りはEarly Adopters以外の大多数は商品導入に踏み込むことはない。

ニッチマーケット攻略の実例

eBay(1995年創業) の場合:  ペッツのキャンディ・ディスペンサーのファンがコレクション収集するために熱狂的に使用していたとされている(真実かどうかは定かではないが小物の収集家を中心にeBayが広がったのは事実のようだ)。なお、eBayの場合は決して意図的にそのようにしたわけではなく、もともとは趣味で始めたサービスであって、偶然そういった利用者の間で広がったことで、趣味から事業へと進化を遂げることになった。 

Pez Candy Dispensers

Google(1999年創業)の場合: 検索エンジンの利用者側の話ではなく、広告主側の話。先行していたヤフーで広告を出す場合、画像をはめ込むバナー広告の形式しかなく月額で100万円もしていた。加えてバナーを作成するため、内省のデザイナーがいない場合、追加で30万円近い外注費を要していた。そんな中、Googleが始めたのがセルフサービスのテキストアド広告というバナーを利用しないテキストだけの広告。いわゆる検索連動型広告。1000の言葉より1枚の絵のほうが伝わることを考えれば、テキスト広告の宣伝効果を懐疑的に思う人の方が多かった。そんな中、これらのサービスを率先して利用したのが、ヤフーで広告を出すほどのお金のないスタートアップ企業。これらの広告主がEarly Adopterとしてセルフサービスのテキストアド広告を利用し、その宣伝効果が徐々に確かめられるようになり、その後Early Majorityへ広まることとなった。

Facebook(2004年創業)の場合: ハーバード大学の学生を中心に広まったのは有名な話。もともとは各学生寮ごとに個別のオンライン名簿(ただのホームページ)しかない中、全学が利用できるソーシャルネットワークサービスを提供したことですぐさま広まった。その後、大学ごとに広げていき、いずれ一般全体に広げたときには、大学生の間で既に築かれていた高い評判のおかげでEarly Majorityが一気に利用するようになった。

ニッチマーケットを攻略する際、特殊なニーズを持つ切羽詰まっている者を探し出す

既存の大企業が提供しているサービスは、普通に考えればバグもなく概ね品質も高いはず。そこにスタートアップが新しい商品を投入したところで、飛びついて利用するのは新しい物を積極的に試したいと思う極少数のInnovatorだけであり、他の大多数は見向きもしない。

そこで、Innovatorを越えてEarly Adopterにまで利用してもらうには、彼の特異なニーズに強く訴求する必要がある。eBayの場合、他のどこよりも豊富な品ぞろえのペッツのキャンディ・ディスペンサーをマニアックな収集家に提供した。Facebookの場合は、誰よりもソーシャル・プレッシャーに晒され少しでも多くの友達と繋がることが死活問題のハーバードの大学生に向けたソーシャルネットワークだった。これらのような特殊で強い需要(切羽詰まっている状態)の顧客に商品を提供することで、強固なPMFが実現される。

PMFに到達できないとき、商品を変更(商品のピボット)するのではなく、別の切羽詰まっている顧客を見つけ出す努力をする(顧客のピボット)をすることが肝要となる。逆に切羽詰まっていない顧客の場合、わざわざ新しい商品を試すことは少ないと認識する必要がある。

なお、テクノロジーの場合、従来品より10倍以上早い、10倍以上価格が安い、10倍以上効率が良い、10倍以上品質が良いものが生まれたときにPMFが実現されるともベン・ホロウィッツは言っている。逆にそれだけインパクトがないと、誰もわざわざ従来品からは乗り換えない。その10倍のインパクトをもたらすことのできる、切羽詰まっている誰かを探し出すことこそが、PMFに到達するための道筋となる。

最後に販売チャネルについて

販売チャネルはおおむね、商品の価格に呼応する。一顧客当たりの年間売上が1,000万円を超えるような商品の場合は直接営業(自社営業)、年間売上150万円ぐらいならSIなどの付加価値再販業者(VAR: Value-added-reseller)、10万円未満だったらセルフサービス(オンライン直販など)となる。

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