MBA生が考える、経済的自立を実現する方法(投資は自己責任で)

まずは言葉の定義から。ここで使用する経済的自立(Financial Independence)とは、「一人で生活するためのお金を継続的に稼ぐことができる一人前の状態」や、「収入の範囲内に支出を抑えて一人で、あるいは家族で生活すること」を指しません。

ここで使用する経済的自立という言葉は「投資から得られる収入(不労所得)が継続的に必要な生活支出を上回る状態」のことを指しています。言い換えると、「一切働かなくても、問題なく生活ができる状態」を経済的自立と定義します。個人が汗をかいた後に、資産に汗をかかせるときの話です。

アメリカには「ファック・ユー・マネー」という言葉があります(汚い言葉、容赦下さい)。端的に言うと、完全な経済的自由を得られる程度のお金を指していて、他の言い方をすると今すぐ仕事を辞めても、あるいは解雇されても何ら問題にならない程度のお金を指しています。ファック・ユー・マネーを得た時点で、上司やその他大勢の人間に「ファック・ユー」と言えてしまうところから来ています。こちら、映画ザ・ギャンブラー/熱い賭けの一節がわかりやすいかと思います。

この「ファック・ユー・マネー」を得た状態をここでは経済的自立と呼びます。ここから経済的自立を実現するための4つのルールを記したいと思います。

ルール1: 4%ルールで必要な資産を算出する
まずは経済的自立を得るためにいくらの資産が必要なのか。それを理解する上で4%ルールというのがあります。資産総額と必要な生活資金の関係を示す数字で、仮に1億円の資産がある場合、その4%は400万円となります。400万円ではなく、1000万円ないと生活ができないという方は、その25倍(4%の逆数)の2.5億円の資産が必要となります。

4%という数字は、投資から得られる平均的リターン6%(株式と債券等を組み合わせたようなものを想定)から平均物価上昇率2%を差し引いて概ね算出されます。投資資産から毎年4%分引き落として生活をしても、物価調整後の資産は維持されるところにポイントがあります。

ルール2: インデックスファンドに投資する
必要な資産がわかったところで、全額の80%を株式インデックスファンドに、20%を債券インデックスファンドに投資する。以上で経済的自立が成立し、ファック・ユー・マネーを得た状態に移行したこととなります。すごく簡潔です。

なお米国でインデックスファンドに投資する場合、世界で初めて個人向けインデックスファンドを売り出した運用会社で現在の運用資産総額が500兆円を超過しているバンガード社 (2017年現在、ブラックロックに次いで世界2番手だが、2020年には世界1位に、2023年には1000兆円を超えると予想されている)が提供するVTSAXあるいはS&P500 Index Fund(いずれも株式インデックファンド)と、同じくバンガード社が提供するVVTLX(債券インデックスファンド)がおすすめとされています。上記がおすすめなのは、圧倒的な規模に裏付けられた高い実績と信用力、ならびに他者より低い手数料のためです。

なお、日本から投資する場合、2017年より「楽天・バンガード・ファンドシリーズ」が登場したことで、上記の株式インデックスファンドには投資が可能です。「楽天・全米株式インデックス・ファンド」がそれに当たります。

ここからは、なぜインデックスファンドに投資すべきなのかを説明します。

アクティブ運用とパッシブ運用の違い
投資の世界はアクティブ運用とパッシブ運用の二つに分類されます。アクティブ運用には一般的に考えられる個別企業の株式への投資(ストックピック)なんかが含まれます。あれこれマーケットや個別企業のことを能動的に考え、ベンチマーク(日経平均株価、S&P500等) 以上の運用成績を目指すものです。ヘッジファンドなんかはこの分類に含まれます。アクティブ運用の一つの特徴はあれこれ考えて投資をするため、フィー(運用報酬)が高く設定されています。

逆にパッシブ運用はインデックスなんかに代表される運用方法で、運用目標とされるベンチマークに連動する運用成果を目指すものです。この場合、あれこれ個別企業のことは考えず、日経平均に含まれるすべての株式を時価総額に応じた割合ですべて買っているような金融商品です。アクティブ運用とは違いあれこれ考える必要がないため、アクティブ運用と比較してフィーはかなり低く設定されています。

アクティブとパッシブではどちらが儲かるのか
その1:シャープレシオによる考察
儲かるかどうかを説明する上で、リスクとリターンの関係について理解する必要があります。一般にリスクが高いほうがリターンが高いということは理解されています。逆にリスクが低ければリターンも低くなります。そこで金融商品を考える上で重要な指標になるのが、リスクとリターンのバランスを表す「シャープレシオ」というものです。

1990年にノーベル経済学賞受賞のウィリアム・シャープ(スタンフォード大学教授)が1960年代に考案したもので、期待リターン(厳密には期待リターンからリスクフリーレートを差し引いたもの)を期待リスク(=標準偏差)で割った数字のことです。投資を考える際、単なるリターンの大小ではなく、さらされているリスクとのバランスを評価する必要があるという考え方に基づき導き出された指標です。

シャープレシオが高い ⇒ さらされているリスクに対して期待リターンが高い
シャープレシオが低い ⇒ さらされているリスクに対して期待リターンが低い

さらに、ウィリアム・シャープは、株式を複数組み合わせて作られる無限に考えられるポートフォリオの中で最もシャープレシオが高くなる(さらされているリスクに対して期待リターンのバランスが最も高くなるの)のは、市場ポートフォリオと呼ばれる、市場にあるすべての株式を時価総額の比率に応じて組み合わせたものであることを証明しました。(細かいことを理解したい場合、CAPM: Capital Asset Pricing Modelが参考になります。)

まさに、この市場ポートフォリオに投資できるのが先述のインデックスファンドであり、それを1976年に初めて個人向けに販売したのがバンガード社になります。シャープレシオの高さという指標において、パッシブ運用の方がアクティブ運用に勝るということが言えます。

アクティブとパッシブではどちらが儲かるのか
その2:フィーの視点からの考察

ウィリアム・シャープはもう一つ重要な考察をしています。アクティブ運用は必ず、市場平均以下のリターンを生むとしています(1991年に発表しているThe Arithmetic of Active Management参照)。その理由はごくごく単純で、アクティブ運用の方が請求されるフィーの分だけ、全体の平均リターンが抑えられるからです。すごく優秀な(あるいは運がよい)ポートフォリオマネージャについて、高額なフィーを差し引いてもベンチマーク以上の運用成績を残すことはあります。ただし、アクティブ運用の全体平均を見れば、フィーの分だけ市場平均リターンを下回ることは紛れもない事実です。もし、優秀な(あるいは運のよい)ポートフォリオマネージャを確実に特定できないのであれば、やはりフィーの低いパッシブ運用の方がリスクに対する期待リターンは高くなります。

世の中にはすごく優秀なポートフォリオアマネージャがいるのは事実です。また、ごく稀に何年も続けて好運用成績を残すウォーレン・バフェットのような奇跡的な存在がいるのも事実です。ただし、優秀なポートフォリオマネージャほどフィーが高いのが一般的です。かの有名なSteve Cohen氏がかつて代表を務めていたS.A.C. Capital Advisorsでは2000年代当時、3%のマネジメントフィー(毎年運用総額に対して課される運用報酬)に加えて、50%のキャリー(利益総額に課される追加の運用報酬)を請求していました。法外なフィーです。(余談だが、S.A.C.はその後、世界最大のインサイダー取引事件により起訴されています。)。運用成績を評価する際、ベンチマークとの差分をアルファと呼ぶことがあり、アルファがプラスであれば、ベンチマークを凌駕した運用成績を残したことになります。業界平均を見たとき、アルファに比例してフィーが高くなる傾向があり、結果的にアルファはフィーによって相殺される、あるいは負の数字になることがしばしばです。S.A.C.の場合、フィー後でもアルファを生んでいたようですが、Steve Cohen氏本人が1兆円以上の資産を築いたことも間違いありません。

2007年のこと、ウォーレン・バフェットは自らの個人資産1億円をかけて、Protégé Partnersというニューヨークのアセットマネージャーと公開で賭けをしています。ウォーレンはS&P 500のインデックスファンドに、 Protégé Partnersは自らが選んだ5つのヘッジファンドを組み合わせたポートフォリオに賭け、その先10年間の運用成績で勝敗を決めることにしました。案の定、2017年12月のこと、ウォーレンが圧勝をしています。S&P 500のインデックスファンドは毎年平均7.1%のリターン (先述の6%の平均リターンに対応する数字) なのに対して、5つのヘッジファンドのポートフォリオは毎年平均2.2%のリターンになったと発表しています。やはりフィー体系の高いヘッジファンドの方が総じて(フィー後の)リターンが低くくなる傾向にあるひとつの実例です。

上記のシャープレシオフィーによる二つの観点から、パッシブ運用のほうがリスクリターンのバランスが良いと言えます。市場参加者の平均を上回る運用成績を個人として残す根拠がある、あるいはウォレンバフェットのようなすごく優秀なファンドマネージャを知っておりフィーも比較的抑えた形で運用してもらえる方以外はパッシブ運用したほうが良さそうです。

ルール3: 景気後退局面において損切しない

急に不景気に突入して、株価が一気に下がることがあります。日に日に株価が下がるため、損切すべきなのではという焦りに間違いなく駆られます。株価が急落しようとも、気にせず損切しないことが重要です。言葉にするのはすごく簡単ですが、実際に株価が急落する中、売らずに持ち続けることはかなり難しいです。それでも売らない。売るという選択肢がないと決めておくことが重要です。そもそもインデックスを買っているので、上場企業すべてが倒産して紙屑になる可能性は考えられません。むしろ、下がったときこそ保有量を増やすのが正しい選択です。ウォレンバフェットは、「株価が下がることは、保有株式を買い増すチャンスとして喜べ」とまで言っています。

フィデリティ社(世界的に有名なミューチュアルファンドで資産運用額は200兆円を超える)が行った興味深い調査結果があります。2003年から2013年について、顧客口座別に運用成績を調査したところ、もっとも好成績だったのが持ち主が亡くなっていた口座、次に好成績だったのが口座の存在を持ち主が忘れていた口座でした。 平均で見ると、 損切をしたり、思い付きで買い増したりしないほうが高い運用成績が残せるという一つの証拠です。

ルール4: 家は買わない

家を買うことで、資産の大部分が一件の不動産に集中することになります。価格が大幅に上昇するかもしれないし、大幅に下降するかもしれません。大地震、水害、地滑り、台風、落雷、隕石、放火により倒壊あるいは損傷するかもしれないし、どこからかテポドンが飛んでこないとも限りません。首都が移転したり、新しい新幹線が開通して需給が変わるかもしれません。 劣化により大がかりな修繕工事が必要になるかもしれません。 原子力発電所が爆発して放射能汚染で100年先まで住めなくなるかもしれません。テロリストにハイジャックされた旅客機に衝突されるかもしれません。いずれも個人として確実に予測することは難しく、すべてを保険で賄っては莫大な費用がかかります。家を100件買うならともかく、1件しか買わない場合はリスクが大きいと言えます。

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