突出したリターンを実現するために

起業アイデアには4種類あるとされる。

左上:誰もが良いと思うようなアイデアで、本当に良いもの

左下:誰もが良いと思うようなアイデアだけど、実は悪いもの

右上:誰もが悪いと思うようなアイデアだけど、実は良いもの

右下:誰もが悪いと思うようなアイデアで、本当に悪いもの

左下と右下は結果的に悪いアイデアなので、リターンはない。

興味深いのは上の二つ。左上は誰もが良いと思うものなので、結果的に高いリターンは得られにくい。右上のその他大勢と意見が分かれたときにこそ突出したリターンが生まれる。

例えば、2009年から2016年の間、ブロックチェーンを利用したクリプトカレンシーが普及すると考えていた者はごく少数しかいない。早くからクリプトカレンシーの可能性を信じ、誰よりも早く投資していた者だけが2017年になって大きなリターンを生んでいる。逆にクリプトカレンシーが広く認知されてからクリプトカレンシーに投資をした者はリターンどころか大きな損失を被っている。

他の言い方をすると「少数派が多数派に変わる時」にこそ大きなリターンが眠っているとも言える。逆に多数派になった時点で大きなリターンは得られにくい。

著名投資家のPeter Thielが起業家に聞く有名な質問があるが、これも同じことを問うている。

“What important truth do very few people agree with you on?” 「あなただけが知っている、他の人が賛成しない大切な真実は何ですか?」

これをキャリアに当てはめて考えてみると、誰もが良いと思うようなキャリアや職業に就いても突出したリターン(金銭以外のものも含む)は得られないと読める。突出したリターンを得る上で、皆が決して賛同しないようなキャリアや職業に就くことが重要なのかもしれない。

シリコンバレーとインターネット時代の到来

米タイムマガジンの表紙を裸足で飾った人はこれまでにただ二人。

一人目がマハトマ・ガンディ(1931年1月)。

二人目はネットスケープを創業したことで有名なマーク・アンドリーセン(1996年2月)。当時わずか24歳。裸足にジーパン、黒のポロシャツ、足を組んだまま頬杖をつき、玉座に座る。

Time Magazine February 19 1996

1990年代前半、インターネットは世の中一般には普及していなかった。多くの人にとっては抽象的な概念に過ぎず、主な利用用途は軍事あるいは学術目的に留まっていた。そんな中、イリノイ大学に通う若きマーク・アンドリーセンはエリック・ビーナと共にモザイクという名のインターネットブラウザを在学中の1993年に開発し、インターネットが世の中に普及するきっかけを作った。

大学卒業後、シリコンバレーに居を移したアンドリーセンはシリコン・グラフィックス社創業者のジム・クラークと共にNetscape社を1994年4月に創業する。1994年10月にはモザイク・ネットスケープという名のブラウザを提供し、インターネットが世の中一般に初めて広く普及することとなる。

1995年8月、創業後わずか一年半で上場を果たし、上場初日の終値で$3Bの時価総額をつけた。これを機にドットコムブームが始まり、現在の我々の知るシリコンバレーの姿が形作られたとされている。

The Netscape Navigator homepage (1995)

Netscapeはその後、Microsoftの提供するインターネット・エクスプローラーと「ブラウザ戦争」を繰り広げた後、1999年11月にAOLに$4.2Bで売却され、その幕を閉じた。

踊る馬

あるところに商人がいました。商人は付き人と馬を一頭連れ、王様のところに行きました。「この馬は非常に珍しい馬です。実はすごく上手に踊ることができます。こんな馬は世界中どこを探しても他にはいません。買ってやって下さい。」と王様に言いました。

すると王様は、「それでは、踊るところを見せてくれ。」と言います。

「実はまだ踊る練習の途中で、完璧に踊れるようになるには一年かかります。今すぐにお見せすることはできません。」と商人は答えます。

「ただ、練習するにもエサ代がかかります。今すぐに買ってやってくれはしないか。一年後に必ずや完璧に踊るところを見せて差し上げます。」と商人は続けます。

「わかった。それでは今すぐお金を渡すから、一年後に完璧に踊れるようになって帰ってきなさい。ただし、万が一踊れないようなことがあれば君とその馬は首を落とすことになるぞ。」そう言って、王様は商人に大金の入った袋を渡しました。

商人とその付き人は大金を受け取り、馬を連れて帰りました。

実はこの馬、もともと踊ることができません。にも関わらず、 大金を手にした商人は踊りの練習をはじめようともしません。それどころか、来る日も来る日も酒池肉林の大宴会に勤しみました。見かねた付き人は、「あなた様。早く練習をはじめないと首を落とすことになりますよ。」と言います。そんな進言もお構いなしに商人は来る日も来る日も盛大に呑み、時間の限り遊びに興じます。

その後、踊りの練習を一時もすることなく約束の期日まで残すところ1時間となりました。付き人は、「あなた様はどうなさるおつもりですか。あと1時間で首を落とすことになりますよ。本当に踊れるようになるのですか。」


Herbie the Dancing Horse by California Creations available on amazon

こう言われた商人は次のように言いました、

「まだ1時間もあるじゃないか。まだまだ楽しむ時間があるぞ。最後まで盛大に酒を呑み、盛大に遊ぼう。」

テックが世界を支配している!?

渡米してみて、強く感じるのはテクノロジー企業の存在感の大きさ。世界企業番付を見ても明らかなように上位10社のうち、7社はテック企業。その中でシリコンバレーに本社を置くものが4社もある。長らく世界の中心はニューヨークだと信じていたが(個人的にすごく好きな街なこともあり)、この10年ぐらいでテクノロジー企業が大きく成長したことで、シリコンバレーと中国にその地位を奪われた感がある。

世界時価総額ランキング(2018年現在)

過去を振り返ってみると、大きな転換点(ニューエコノミーの到来)と言われているのが1995年8月、Marc Andreessen率いるNetscapeのIPO(現在は当たり前になっているインターネットブラウザをはじめて普及させたソフウェア会社で、インターネットが一般化するきっかけを作った会社)。わずか1年ほど前に創業した会社にも関わらず、IPO初日の終値で$2.9Bの時価総額をつけ、インターネット時代の到来を告げたとされている。

そこから20有余年が経過した今、テック企業のUberが正に上場しようとしているが、およそ$100Bの時価総額と噂されている。Netscapeのそれと比較すると2桁も成長している。このことからもテック企業群がいかに拡大し、世界に大きな影響を与えるまでに成長したかが読み取れる。

Marc Andreessenの有名な言葉でSoftware is eating the world(2011, Wall Street Journal)というのがある。当たり前と言えば当たり前だが、小売にしろ、出版にしろ、電化製品にしろ、自動車にしろ、ヘルスケアにしろ、どの業界もソフトウェアを背景とした巨大企業が誕生し、いわゆるOld industryの企業群は淘汰されていっている。翻って日本に目を向けると、多くの企業が淘汰されていっている側に立たされていると感じる。


Netscapeが創業当時に使用していたマスコット。競合ブラウザのMosaicを倒すという意味が込められていた。

MBAに留学している身として、中長期のキャリアを考える際、ソフトウェアを背景に成長する企業・業界に身を置くべきなのか、あるいはソフトウェアによって駆逐される企業・業界に身を置くべきなのか、冷静に考えさせられる。